小説:EVE TFA 〜亡き王女のための殺人遊技〜

桜庭一樹著。


「私の男」が直木賞を受賞したんでしたっけ?
昔から直木賞芥川賞にはとんと興味がない。
嘘。
宮部みゆき直木賞をとったときは快哉を叫んだものです。
嘘。
あまり覚えていないが、兎に角うれしかったような。
俺には関係ないのだけれど。


現在有名である著者の過去の汚点…かどうかは知らないが、日の当たらない部分をこっそりと眺めるのはなかなかに愉悦。
それがいわゆるオタク的嗜好ですか。
現在進行中で急速に認められつつある潮流からは身を置いて、遠く彼岸にて彼方を見る楽しみ。
なぜなら、そこには荒削りながらも輝く原石があるからだ。
答えを知っている今に於いては、いずれこれがダイヤモンドに変わる安心感を得ている。
同時に、整えられたダイヤモンドからは、新鮮さと情熱が薄れる傾向がある。
まー、桜庭一樹さんはこれから情熱を注いだ作品が怒濤の如く溢れるのであろうが。


そして本書。
2001年発行ということで、そんなに旧いわけでもない。
だが、矢張り荒削り。
の、はずだが、この人はシンプルに本質を捉えることに長けているようで。
おおよそ荒、というものが見あたらず、静かに堂々とした川の流れが上流から下流に向かっている。
安定であり、安心であり、いくばくかの物足りなさ。
これがオリジナル小説であれば、評価は低いのではないだろうか。


しかし、本書は原作アリ。
EVEというカルト的人気を博した美少女ゲームを背景に持っている。
作者は何も冒険する必要はない。
ただ、ファンの事を思い、それを広げる努力をすればいい。
そして、大勢の諸作家がどこかしらで失敗するであろう「自意識を押さえた演出」を見事成功させている。


ここにはEVEファンへ向けたプレゼントがある。
天城小次郎。
法条まりな。
桂木弥生。
懐かしい面々が、同窓会を開いている。
彼らはバーストエラーの頃と変わらない風景を見せてくれる。
小次郎と弥生のちょっとした未来への希望をおまけにつけて。


冒険はない。
新鮮な空気もない。
しかし、原作ファンにとっては宝物となるだろう。


ここには確かにEVEの魂がある。



※とはいえ、EVE The Lost Oneはあんまりだった…。