法月綸太郎『密閉教室〜ノーカット版〜』の読了。


原稿用紙3枚程度、多くても3000字程度の文章量でエピソードが切り替わっていくのは、
さらりさらり、とアクエリアスを飲み干すようで、身体に吸収しやすく読みやすい。
そうかと思えば、内容は毒に近いどぎつい油まみれの豚骨ベースで、気がつけば胃がもたれる。
そんな印象を受ける本だった。


作者が冒頭で述べているように、この作品は明らかに荒削りで未完成だ。
何か得体の知れない可能性が隠れているのでは?という編集者の読みに対しては、
現在の著者の活躍ぶりからすれば誠に慧眼と言わざるを得ないけれど、
それにしてもこの本から感じられるのは「若気の至り」の一言。


とはいえ、この若さこそがすばらしいのかも知れない。
若さとは何か、という問いに答えが出せるほど歳を食っているつもりもないし、事実そうだと思うのだけれど、
ぼんやりと思われるのが、「盲目的な自信」ではないかと。
人生、何事かをなすためには本人の才よりも気力が大事。
気力は何より生まれるのか?
それは目的意識や責任感でもあるだろうが、根幹には自己に対する絶対的かつ盲目的な自信が隠れている。


『密閉教室』は荒削りで、心底面白いと断言できるようなものでは無いけれど、
それでも作者の若さと野心の伝わってくる、非常に元気な作品である。


……にしても、主人公の不憫さに泣いた。


ノーカット版  密閉教室 (講談社BOX)

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